診断のご説明
diagnosis
病気を診断する
病気の分類
病気は、免疫系の働きが大きくかかわる「火事」のようなもの(炎症性疾患)と、体をつくる組織の構築上に問題が生じる「事故」のようなもの(形成性疾患)と、大きく二分されるように感じております。
たとえば、皮膚科で問題になりやすい病気でいえば、
- 1.過敏症 → 免疫系の過剰な応答が「火事」を惹き起こします。
- 2.膠原病 → 免疫系が自己を誤認し「火事」のもととなります。
- 3.感染症 → 免疫系は正常応答でも「火事」が消せず困ります。
- 4.腫瘍等 → 何かが異常に増えすぎると「事故」を起こします。
- 5.欠乏症 → 何かがあまりに少なすぎて「事故」を起こします。
病気の診断の第一歩は、いまお困りの 症状 が、これらどのグループに属する不調なのか、という大まかな判断をつけることから始まります。 判断のためにはどうしても 分類 が必要になってくるのです。
病変の局在
皮膚というと、大切な体の表面を覆っているだけの、薄っぺらな膜のようなものだとお感じかもしれません。
しかし細かく見れば一口に皮膚と言っても、実は構造も役割も異なるさまざまな組織からできています。たとえば表面から順に「表皮・真皮・皮下脂肪」という 層状 の構造に分かれていることは、ご存知の方も多いかと存じます。病変の 深さ が重要なのです。
さらにそれを細胞、物質、化学分子、、、といった微細な要素に分けていけば、それぞれの 階層 に応じた、さまざまな不調の形があり得るわけです。
また、「体幹・四肢・頭頚部」といった 部位 ごとの違いも重要です。ヒトが人として成り立つために、もとは均一な細胞の塊がさまざまな分化を遂げ、機能を獲得した細胞が適宜つどって組織をなし、組織が集まって器管をつくり、、、。
こういった 多様化 こそが、部位特異性のある疾患(酒さ→顔、癜風→体幹、掌蹠膿疱症→手のひら・足の裏)を特徴付けるわけですし、逆に部位が診断の大きな手がかりとなるゆえん、でもあります。
病名と診断
皮膚科は 病名 が多い、多すぎる科として知られています。
たとえば肝臓にできたがんは「肝臓がん」です。胃がんも大腸がんもあります。しかし皮膚にできたがんを、単に「皮膚がん」とはなぜか気やすく呼べないのです。光線角化症・ボーエン病・基底細胞癌・有棘細胞癌・外毛根鞘癌・汗腺癌・脂腺癌・メルケル細胞癌・乳房外パジェット病・悪性黒色腫、肉腫、リンパ腫 、、、とまで分類しないと、気がすまないのが皮膚科医です。皮膚は全身にあるからこそ分類が必要だ等々、よくは存じませんが理由はいろいろあるのでしょう。
そして、病名をつけることに誇りを感じるのが、紛れもなく皮膚科医の一面です。
さらに、病名こそが 治療 を決める。これもまた一面の真実です。
しかし、病名をつけることと 診断 をつけることは別物である、とも感じられます。
禅問答のようで気が引けますが、治療を導くのは病名のほうではなくて、患者様 ひとりひとり に応じた診断のほうである。この点は銘記していきたいと思います。
診断をつけるということ
皮膚病のかたを前にして、「皮膚が火事になってますね」という大まかな判断を下すだけでは先に進めません。そこでまずはしっかり 診察 をします。いつどこがなぜどのように(5W1Hのようなもの)といったさまざまな観点から、判断を細分化・精緻化していきます。その過程で病状を分類して 病名 をつけていくことになります。より正確に判断するには 検査 なども必要になるでしょう。
これらの過程は一瞬で済んでしまうこともあれば、長い時間がかかることもあります。その間、病名で画一化できない病気の個性のようなものも一緒にわかってくるのです。そうしてたどり着くのが 診断 です。ひょっとすると診断自体は、お会いするたびに変わっていくかもしれません。
注目していただきたいのは、診断は決して単に「体の不調を、病名のついた疾患に置き換える」だけの行為ではない、ということです。インターネットの時代になったいま、病名のひとり歩きばかりが目立つように感じられ、戒めていきたいものです。
皮膚科の診察
皮膚疾患の診察においては、とくに視診と触診が大切になります。問診その他は二の次になりがちな側面もあります。無口でも皮膚科医は勤まりますが、院長は無駄口が多いほうかもしれません。
視診
発疹の色や形、大きさを見ます。ただ「赤い発疹」というのではなく、ぶつぶつしているのか、ざらざらしているのか、水っぽいのかそうでないのかなど。
個々の発疹(個疹)が均一か、そうでなくて大小さまざまであったり、新旧混在したりなのか、といった点も重要な手掛かりとなります。
そして特に大切なのは、発疹全体の 分布 の具合です。どこか局所の問題なのか、それとも全身に出ているのか。左右差があるか、対称性なのか。体幹なのか、四肢なのか、頭頸部なのか。中枢側か、末梢側が優位なのか。
皮膚の疾患は、おのおの特有の「形態」に、まず手がかりが現れるのです。
触診
皮膚の病気には 浅い (表皮レベルの)ものと、 深い (真皮レベル以下の)ものでは、治療の仕方にも大きく異なる部分があります。
さらに、免疫系が活躍する「炎症性」の病気か、免疫系が無関心な「形成性」の病気か、を見分けていきます。それには病変の色や形のみならず、「硬さ」が重要な判断基準になることも多いのです。
浅いものは軽く触れて診察します。ぶつぶつ・ざらざらの具合から、表皮の炎症や傷害の程度を推し量りします。
深いものは摘まんだり圧したりして、厚みや形や硬さ、痛みや周囲との動きやすさなどを診ます。そのしこりの具合から真皮の炎症の程度を測ったり、皮下組織への浸潤の程度を推測したりします。腫瘍なら良性なのか悪性が疑われるのか、などを判断します。
皮膚の診断には、表面からはわからない「構造」にも常に留意する必要があるのです。
問診
皮膚科の診察には、前述のように視覚・触覚が優先されますが、もちろんそれだけではありません。
たぶん医師のほうでも無意識のうちに、五感や第六感をも動員して取り組んでいます。中でも 問診 は重要で、何を訊くかに各医師の個性が顕れるものだと思います。一問一答はあくまでも診療行為の一環とお考えいただき、前向きにご協力ください。尋ねられたら答える、という程度のスタンスでけっこうです。
正しい診断に向けて、病気を探るための「言葉」は惜しまないようにしていきます。
皮膚科の検査
患者様から、その検査は必要ですか?と訊かれることがあります。その答えは。まぎれもなく 必要 です。
そして皮膚科ほど、できるだけ 簡便 に、かつ 必要十分 にとどめていきたい、と考えている科は、まずほかにはないのではないかと感じております。手前味噌かも知れませんが、手作業感あふれる検査もまた皮膚科医の誇りの一部とお考えください。
検査の種類
皮膚科は患者様を前にして、その場で診断につながる検査が多いのが特徴かとも思います。
以下のような検査があります。その場で結果をお伝えできるものも多いです。
- 顕微鏡検査:
採取した検体を顕微鏡で見て診断します。(後述) - 細菌/真菌培養検査:
病原体を慈しみ育てます。薬剤感受性検査などに必須です。 - ダーモスコピー検査:
おもに色のある疾患を、特殊器具で拡大視して診断します。 - 硝子圧法・アウスピッツ法:
現在、ダーモスコピーにて代替可能です。 - ウッド灯検査:
紫外線下で特有の色調を呈します。紅色陰癬など。(保険未収載) - 超音波検査:
エコー検査は腫瘍系疾患をはじめ、きわめて有用です。(他院紹介) - MRIをはじめとする放射線科的な検査:
ときにきわめて有用です。(他院紹介) - プリックテスト・皮内テスト:
I型アレルギーにおいてその場での反応を見ます。 - パッチテスト(貼布試験):
IV型アレルギーにおいて2・3日~1週間後に見ます。 - 発汗試験:
無汗症/乏汗症の確定と重症度判定に寄与します。(他院紹介) - サーモグラフィー検査:
循環/発汗不全の診断に有用です。(他院紹介) - 光線試験:
紫外線/可視光照射への反応を見ます。特殊な薬疹など。(他院紹介) - 内服誘発試験:
薬疹の検査で、被疑薬を少量から実際に内服してみます。 - 血液検査:
採血して診断します。当院では結果判明まで1日以上要します。薬剤副作用をはじめ、アレルギー疾患、膠原病、白血病等、ほかいろいろわかります。 - 病理組織検査:
おもに局所麻酔下に採取した皮膚そのものを検査します。(後述) - キット検査:
ホットなのが白癬キット。皮膚科医きっとカッとする?(収載?)
顕微鏡検査の実際
皮膚科は患者様を前にして、その場で診断につながる検査が多いのが特徴かとも思います。
以下のような検査があります。その場で結果をお伝えできるものも多いです。
鏡検=検鏡
検体をとってその場で、おもに皮膚科専門医が見て診断します。
新生児中毒性紅斑、肢端膿疱症(乳幼児など)、好酸球性膿疱性毛包炎、天疱瘡、一過性棘融解性皮膚症??、単純疱疹・帯状疱疹、しらみ症、疥癬、ニキビダニ皮膚炎、チャドクガ皮膚炎、青果蓚酸皮膚炎???、クロモミコーシス、クリプトコッカス症?、アスペルギルス症?、マラセチア毛包炎、脂漏性皮膚炎?、癜風、カンジダ症(病名多数)、白癬∈水虫=みずむし、、、
などの診断において、有力な手掛かりとなります。
病理組織検査
皮膚そのものを少量採取して、プレパラートを作成していただき、おもに病理や皮膚の専門医が見て診断します。
あらゆる皮膚疾患に適応があります。腫瘍性疾患においては、診断確定に最有力の根拠となります。
特殊染色などを用いた高度な病理組織検査
リンパ腫をはじめとして、さまざまな疾患の診断確定根拠となります。
鏡検は麻酔なしで検体を採取できます。病理は局所麻酔下に、おもにパンチという丸い刃物で穴をあける手術的手技にて検体を採取しますが、麻酔なしのこともあります。
いずれにせよ当院には、顕微鏡を自家薬籠中の物にできるように修練を積んできた皮膚科医が見参いたします。